「質の高い教育をみんなに」
これは、SDGsの目標のひとつです。
世界中すべての人が教育を受けられるようにしましょう、というものです。
日本では考えにくいことですが、世界には小学校レベルの教育を受けられない子どもがたくさんいます。
今回は、SDGs目標4と世界の教育の現状、そして目標4達成のために行われている取組とボランティアなど、私たちにできることをまとめました。
1.SDGsと教育
1-1.SDGsとは?
SDGsは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称で、2030年までに達成を目指す17の目標と、目標達成に向けた169のターゲットで構成されています。
2015年9月に、国連加盟国の全会一致で採択されました。
(参照) 国際連合広報センター 2030アジェンダ
1-2.質の高い教育をみんなに
SDGsでは、環境、経済、貧困など、様々な問題を解決するための目標が掲げられていて、その中には、教育に関する目標も含まれています。
SDGsの目標4「質の高い教育をみんなに」です。
もう少し具体的な説明として「すべての人に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する」という文章も添えられています。
さらに、この目標の達成実現に向けた具体的な11のターゲットが紐づいています。
(参照) 日本ユニセフ協会 SDGsCLUB
目標4に紐づいているターゲットをいくつか例に挙げて、目標4について少し詳しく説明します。
・ターゲット4-1
2030年までに、男の子も女の子も、すべての子どもが、しっかり学ぶことのできる、公平で質の高い教育を無料で受け、小学校と中学校を卒業できるようにする。
・ターゲット4-2
2030年までに、すべての子どもが、幼稚園や保育園にかよったりして、小学校にあがるための準備ができるようにする。
日本に限って言えば、ターゲット4-1と4-2についてはほぼ達成されていると見ることができます。
日本は、憲法や法律で教育に関する義務や権利が謳われています。
そして、小学校や中学校は「義務教育」とされ、授業料の徴収は無く、子どもは学校に通うことが当たり前となっています。
また、統一された教育課程があるため、どの学校に通う子も、ほぼ同等の教育を受けることができます。
(参照) 文部科学省 教育基本法 第4条 (義務教育)
もちろん、問題が無いわけではありません。
色々な事情があって学校に通えない子どもたちもいます。
そういった子たちを取り残さず、学校へ通ったり、小中学校と同等の教育を受けられたりできるようにすることが、日本で解決するべき課題の1つかもしれません。
一方、海外ではどうでしょうか。
日本は「先進国」に分類される国なので、海外については、いわゆる「発展途上国」と呼ばれる国を見てみます。
結論から言うと、日本では比較にならないくらいたくさんの子どもが「学校に通えない」「まともな教育を受けられない」という状態にあります。
ターゲット4-1と4-2の達成とはほど遠い状況です。
原因は、貧困、戦争・紛争、性差別など様々です。
小学校や中学校に通うことが「当たり前ではない」わけですね。
これは、日本に住んでいたら、考えにくいことかもしれません。
日本国内でも「教育格差」は問題となっていますが、国と国の間の教育格差も深刻な状況にあるわけです。
教育環境が整っていない国や地域に住む子どもたちが、きちんと教育を受けられるようにすることも解決するべき課題でしょう。
教育一つ取っても、国や地域によって問題は様々です。
これらの問題を包括し解決に向けた目標設定をしたものがSDGsの目標4「質の高い教育をみんなに」です。
ちなみに、4-3以降のターゲットを見ていくと、高等教育や専門教育、職業訓練、先生の育成など、SDGsの目標4が教育に関する色々な分野を含んでいるものだということが伝わってきます。
フィリピンの山奥の小学校に通っている子どもたち
2.世界の子どもの教育の現状・問題
ここまで、SDGsの目標4がどういったものなのか、日本や海外の現状に絡めて説明しました。
この項では、世界における子どもの教育の現状や問題に焦点を当てて紹介していきます。
2-1.世界の子どもの教育の現状
前項で、日本の義務教育について触れました。
義務教育は日本に限った話ではなく、日本を含めた多くの国で導入されています。
義務教育の年数や制度の内容は国によって(アメリカの場合は州によっても)違います。
単純な年数だけ見ても4年~13年と幅広いです。
(参照) 外務省 世界の学校を見てみよう!
世界の多くの国が義務教育などの教育制度を整えています。
国ごとに年数や内容の違いはあるものの、初等教育(日本では小学校)、前期中等教育(日本では中学校)、後期中等教育(日本では高校)など、その国に住む子どもたちのための教育の受け皿が作られています。
ここで言う「多くの国」には、東南アジアやアフリカなどの、いわゆる発展途上国も含まれています。
その中には、先進国と同等かそれに準ずるレベルの教育制度が整備されている国もあります。
それにも関わらず、前述した通り、子どもたちが学校に通うことが当たり前ではない現実があるわけです。
ユニセフの調査によると、2018年時点で、世界中の小学校適齢期(一般的には6歳から11歳)の子ども12人のうち1人、約5900万人の子どもが小学校に通えていないそうです。
地域で見ると、アフリカ南部で約3200万人と最も多いです。
アフリカでは、5人に1人が小学校に通えていません。
当然、中学校、高校と上がっていくにつれ、学校に通えない子どもの割合は高くなっていきます。
ほとんどの子どもが高校(後期中等教育に該当する学校)まで進学している日本の状況と比較すると、考えられないような現実が存在しているわけです。
アフリカ北部やアジア地域も、アフリカ南部ほどではないにせよ、やはり日本と比べると、学校に通えない子どもの割合は高いです。
世界的に見て、日本の教育環境が恵まれていること、そして、学校へ通うことが「当たり前」とは言えない現実が世界には存在することが、数字から伝わってきます。
(参照) ユニセフ 世界子供白書2019 教育指数 PDFファイル
ゴミ山の中で勉強している子どもたち
2-2.なぜ学校へ通えないのか?
ここでは、子どもたちが学校へ通えない原因について触れていきます。
実際には原因は一つでなく、色々な事情が絡み合っていますが、伝わりやすいよう、一つ一つ切り分けて紹介します。
2-2-1.貧困
貧困が教育の機会を奪ってしまう最も大きな原因と言えるかもしれません。
後述する原因も、貧困が大きく関係しているものがほとんどです、
貧困家庭では学校に通うお金の捻出が困難です。
義務教育で授業料が不要だとしても、教材を買うお金が無く、学校へ通えないということもあります。
また、経済的に苦しい家庭は両親が共働きのケースが多いです。
これは日本でも同じですが、途上国をはじめとする海外では、子どもも働いて家計を支えている例も少なくありません。
朝から晩まで働いている子どもが学校へ通うことはできません。
まともに教育を受けられなかった子どもは、大人になってから貧困状態に陥りやすくなります。
この「貧困の連鎖」によって、たくさんの子どもの可能性が奪われています。
統計上は高い就学率を見せている国でも、貧困が原因で学校に通えない子どもは少なからず存在しています。
例えば、近年、急速な経済成長を見せているフィリピン。
GDPなどの経済指標は大きく向上していますが、その恩恵が国民の生活には十分に反映されていません。
中心部は大きく栄える一方で、未だにインフラが整っていない地域もあり、そういった地域に住む人たちは貧しいままで、学校に通えない子どもたちもたくさんいます。
2-2-2.家事
外に働きに出ていなくても、学校に通えない子どもがいます。
途上国では、炊事や掃除、妹や弟の世話などの家事は、子どもがやっているケースが多いです。
両親が共働きなので、家事をしなければならず、学校に通う時間がありません。
学校はある、教育制度も整っている、にも関わらず、学校に子どもが来ないことがあります。
当の子どもが、とても学校に通えるような状況ではないからです。
2-2-3.性差別
世界には、男性を優遇し女性を軽視する国がまだ多くあります。
それは途上国も例外ではありません。
貧困家庭においては、まず女性を家事に従事させ、男性を優先的に学校に通わせる傾向にあります。
また「児童婚」の問題もあります。
児童婚とは、18歳未満での結婚すること、または、結婚に相当する状態にあることです。
特に、貧困層の女性が児童婚を強いられる傾向にあり、「女性に教育は不要」という考え方が根強い国もあります。
その他、宗教上の決まりで、女性の行動が制限されている、又は軽視されている国や地域もあります。
そういった国や地域では、女性が学校に通いやすい環境にない(例:トイレが無い)、親が女の子を学校へ行かせたがらない(学校は、他の男の子や男性の教師もいるため)などの事情で、女性への教育が浸透しないという背景もあります。
2-2-4.戦争・紛争
戦争や紛争も教育の機会を奪います。
国内の情勢が不安定で治安が悪化して、学校へ通うどころではありません。
実際に、登下校時に戦闘が起きて子どもが命を落としたり、学校が爆撃されたりした例もあります。
難民となって別の国に逃げた場合は、言語・文化の違いや国の情勢などによっては、逃げた先の国で、まともな教育を受けることは難しいでしょう。
2-3.教育が受けられないことによる弊害
教育が受けられないと、その人の人生において様々な弊害があります。
その弊害の最たるものが「文字や言葉の読み書きができないこと」でしょう。
国の教育水準を示す指標の一つに「識字率」があります。
識字率の定義は国によって異なりますが、ユネスコは「日常生活で必要な簡単な文章を読み書きできる15歳以上の人の割合」としています。
現在、日本では識字率の調査はしていませんが、2000年頃の調査では99%という結果が出ています。
多くの国が90%以上で、世界平均は約86%(2016年)です。
当然、識字率が低い国もあります。
識字率が下位の国では、50%未満というところもあり、その多くはアフリカに集中しています。
読み書きができないとどうなるか。
自分に当てはめて想像してみてください。
文章を読むことができないので、スマホは使えませんし、インターネットもできません。
本も読めません。
つまり、得られる知識や情報が大きく制限されます。
世の中にあるほとんどの仕事は、最低限の読み書きやある程度の知識(常識)が求められます。
読み書きが出来ないと、就ける仕事はかなり限られてくるでしょう。
法律や行政からのお知らせなども読めないので、公的な支援を受けることも難しくなります。
結果、貧困から抜け出しにくくなり、貧困の連鎖が続いてしまいます。
3.SDGsの目標4への取組
ここでは、SDGsの目標4「質の高い教育をみんなに」の達成に向けて、世界で行われている取組を紹介していきます。
3-1.日本政府の取組
日本政府は、総理大臣をはじめとする全閣僚で構成される「持続可能な開発目標(SDGs)推進本部」を設置し、ここで決定した指針に沿って、SDGs達成に向けた取組を勧めています。
国内外でSDGs達成に取り組むためのものですが、目標4に関連するものとして、「平和と成長のための学びの戦略~学び合いを通じた質の高い教育の実現~ 」を策定し、国際的な教育協力の方向性などについて明記しています。
(参照) 外務省 JAPAN SDGs Action Platform 日本政府の取り組
3-2.学校給食支援
国連WFP(国際連合世界食糧計画)が行っている支援で、世界各国の学校へ給食を提供しています。
学校で給食が提供されれば、子どもたちが学校へ行く大きなきっかけとなります。
学校へ行けば「ご飯を食べられる」のですから。
それは親にとっても同じでしょう。
教育が行き届いていない国では、子に教育を受けさせることに理解の無い親がいます。
自分も教育を受けていないからです。
しかし、学校給食があれば、「ご飯を食べさせるために」子どもを学校へ行かせようと考えやすくなります。
(参照) 国連WFP 学校給食支援
フリースクールで勉強する子ども
3-3.「みんなの学校」プロジェクト
JICA(国際協力機構)が、2004年から行っている活動です。
アフリカの国々において、学校関係者や行政、保護者、地域住民と協力・連携しながら学校を運営し、地域全体で子供の学びを支えていこうというプロジェクトで、勉強はもちろんの事、給食や校内の衛生管理など、教育環境の改善・発展にも貢献しています。
2021年4月までに、アフリカ8カ国 約52000校が支援を受けています。
(参照) 国際協力機構 進化する「みんなの学校」プロジェクト
3-4.NGOによる支援
様々なNGO(非政府組織)も、世界中で教育支援に取り組んでいます。
例えば、国際協力団体グローリアセブでは、フィリピンのストリートチルドレンや、スラム街の子どもたちの里親を募り、貧しい子どもたちでも学校へ通えるよう、奨学金や学用品を支給しています。
3-5.世界寺子屋運動
世界寺子屋運動は日本ユネスコ協会連盟が行っている活動です。
この運動では、子どもたちだけではなく、色々な事情で学校に通うことが出来なかった大人も対象として、読み書きや計算などを教える「寺子屋」を世界中で行っています。
(参照) 日本ユネスコ協会連盟 世界寺子屋運動
3-6.その他
外務省のwebページに、日本国内の法人や団体などによる取組事例が掲載されています。
これを見ると、実に様々な形の取組・支援があることが分かります。
4.個人でできること
前項で、政府や色々な団体による取組事例を紹介しましたが、もちろん、個人レベルで出来る取り組みもあります。
それぞれがSDGsのどの目標に大きく関わってくるかもあわせて紹介するので、ご自身の興味・関心と照らし合わせて、今後の活動の参考にしてください。
4-1.寄付
シンプルかつ効果の高い取組です。
教育関係に限らず、様々な分野の支援活動で言えることですが、活動の多くは利益の出ない活動です。
活動にかかる費用は、寄付で賄われているケースも少なくありません。
なので、あなたが共感できる、頑張ってほしいと感じる団体へ寄付をすることは、立派なSDGs達成のため、世界のためになる行動です。
近年は、クレジットカードや電子マネーでの寄付が出来るところもあるので、以前より寄付をしやすくなっているのではないでしょうか。
4-2.ボランティア活動への参加
自分自身が支援活動を行うのも良いでしょう。
特に、海外でのボランティア活動は、日本以外の国の実情を肌で感じる良い機会になります。
ただ、海外への支援となると、
「何か秀でた技術が必要なんじゃないか」
「興味はあるけど、腰を据えてボランティアに取り組む時間が無い」
「自分にできることなんてあるのか」と考える方がいるかもしれません。
確かに、語学力や特別な技術はあるに越したことはありませんし、それなりの英語力が求められるものも多くあります。
また、現地に長期滞在できた方が、支援の幅は広がりますし、得られるものも多いでしょう。
しかし、海外でのボランティア活動は、必ずしも語学力や特別な技術が必要となるわけではありませんし、長期滞在が要求されるものばかりではありません。
取り柄が無い(と自分で思っている)、あまり時間が無いという人たちが活動するための受け皿もあるんです。
・日本語や英語を教えるボランティア
・小学校でのインターンシップ
・幼稚園や保育園で読み書きなどを教える
・貧困地域に住む子どもやストリートチルドレンの教育支援 などなど
教育に関するボランティア活動だけでも様々です。
上記の活動は、活動する国にもよりますが、いずれも数日~1か月程度の期間でも可能なものです。
学校の夏休みなどでも十分可能なものではないでしょうか。
短期間の活動であっても、それは現地の子どもたちの助けになります。
5.日本の常識は世界では当たり前じゃない
SDGsの目標4について、そして世界の教育の現状やSDGsの目標4達成のための取組とボランティア活動について紹介しました。
世界には、日本の常識では考えられない国や地域が多々あります。
それは、教育に関しても例外ではありません。
「遠い国の教育のことなんて日本には関係ない」と考える人がいるかもしれません。
しかし、日本の経済や生活は、途上国と呼ばれる国々の人や環境に頼っている面が多分にあります。
その国を支えているのはそこの住む人々です。
そういう人たちがちゃんとした教育を受けられるように支援をする。
決して日本に無関係な話ではありません。
世界はつながり、関係しあっています。
それは、人と人、国と国も例外ではありません。
そのつながりをより良いものにするためには、コミュニケーションが大切です。
コミュニケーションを円滑にするために、読み書きが出来ることって重要だと思いませんか?
SDGs 目標4「質の高い教育をみんなに」
世界中の人がつながっていくためにも大事な目標かもしれませんね。
フィリピンの子どもたちを支援しているグローリアセブでは、SDGsにかかわることのできるボランティアを受け入れています。
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