フィリピンの家族

グローリアセブ インターンスタッフ体験

かりん 宇都宮大学
 

約2ヶ月間、グローリアセブでインターンとしてボランティア活動に参加した。

 

私はこのインターンへの参加が決定するまでフィリピンのことについては何も知らず、この「セブ島」という場所が日本人にとっては「リゾート地」であるということさえ知らなかった。
 

 

今回はこのインターン期間中に私が行ったこと、感じたことや自分自身の変化、約2ヶ月という短い期間ではあるがフィリピンの社会について学んだことなどについて記述していく。
 

2ヶ月の滞在で目にしたフィリピン社会と貧困の状況・現実

斉藤さんが話していたフィリピン社会の3つの特徴である
 
キリスト教(カトリック)社会であること
女性社会であること
格差社会であること、
 
この3つを非常に強く感じた。
 
 
まずキリスト教社会であることについて、様々な場所でアクティビティを行う際には必ずお祈りから始まり、場所によってはお祈りで終わる。
 
活動外の時間にレストランで食事をしていた際には近くのテーブルの家族がお祈りをしてから食べ始める姿も目にした。
 
こうしたキリスト教(カトリック)社会の文化や慣習の浸透は、貧困層、中間層、裕福層関係なく、それぞれの層の間での共通点であると感じた。
 
 
山岳地帯の集落にて一度子どもたちに「はい」か「いいえ」で答えられる質問をした時のことだが、「好きな人がいる人」という質問をした。
 
この質問の意図は「好きな異性がいる人」ということだったのだが、子どもたちに詳しく聞いてみると、家族の他に”Lord”と答える子どもが多かった。
 
 
こうした出来事からも子どもたちの間でキリストが深く根付いていることが感じ取られ、フィリピンの人々の「明るい」という特徴に宗教が一部影響しているのではないかと考えさせられた。
 
 
 

次に女性社会について
家庭訪問の際の質問事項やスラム内を視察した時の様子から、貧困層の家庭では主に女性(母親)が懸命に働いており、母親の収入を当てに暮らしている家庭も多いことが伺える。
 

家庭訪問で訪れるグローリアセブの支援先の家庭では父親も働いており、運転手としてしっかり働いている家庭もあるが、商品が売れればお金が貰え売れなければ収入がないというような不安定な仕事に就いている家庭も多いように感じる。
 
 

更にスラムや集落内では日中から酒をあおりプールに興じている男性の姿も多く目にした。
一歩で女性は洗濯をしたり料理を作って売ったりなど働いている姿が多く見られた。
 
 

そして最後に3つ目の格差社会について
フィリピンでの生活は「格差」というものの存在を常に感じながら生活をする環境であったと思う。
 

高級住宅街へと続いていきそうな道とスラムと呼べるような居住地が混在、あるいはすぐ近くに存在しあっている。
 

道路では車で買い物に行く事ができるような人々と橋の下で雨をしのぎながら寝泊まりしているような人々がひとつの同じ空間に存在する。
 
 

ショッピングモールのすぐ近くにスラムが存在していたり、綺麗に舗装された道を曲がって少し進むとすぐごみ山に辿り着いたりするなど、街の中でも貧富のギャップは非常に目に付く。
 
 

買い物をしていても、食事をしていても、私の隣にいるフィリピン人はどの層に分類されうる人なのだろう、何の仕事をしているのだろう、大学はでたのか、どのくらいの収入があるのか、貧困層の人々と比較してどのような生活をしているのかなどを常に考えた。
 
 

これほど「格差」というものを肌で感じ、頭の中で考えながら暮らしたことは今までの人生経験ではなかった。
 
 

スラムでの暮らしについて

これは主に海沿いのスラムやごみ山についての記述になるが、一言で言ってとにかく環境が良くない。
 
通りにはごみが散らかっており、子どもたちも含めそのごみ溜めのような場所に更にどんどん物を捨てている。
そうすることで更に環境は悪くなって行くのではないだろうか。
 
 

人々は明るく暮らしているが、週をおうごとにスラム内では足場が悪くなっているのが感じられ、壊れては修理を繰り返している様子も見てとれた。
 
 

大雨の際の浸水や火事の際、有事の際の逃げ場の確保が難しいことや助けが入ってこられないことなど、問題も山積みである。暮らしが成り立たなくてはもちろん生きていけないため、成り立たなくてはならないが、こうした場所、環境の中で暮らしが成り立ってしまっていることもまた、ひとつ貧困がなくならない要因なのではないだろうか。
 
 

それとは逆の良い印象としては、テレビの音や音楽など楽しげな音も聞こえ、きちんと娯楽を楽しめる環境があることや、子どもたちがどんな場所でも楽しく遊べる方法を見つけているのはとても素敵なことだと思った。
 
 
ある雨の日に更に雨が強くなったのを感じた子どもたちが喜んでいた姿がとても印象的である。
日本で雨が強くなったことを喜ぶ人はそう多くはないだろう。
かれらは「楽しい」を見つける天才だと思った。
 
 

人々の生活の中には当然経済的な問題もあるが、「強制移住」という問題も存在する。
政府の土地に黙認された状態で暮らしている人が多いため、いずれは政府の一声で移動しなくてはならなくなる。
 

お金があっても新しい場所で新しい生活を始めるということは労力を要するものである。
ましてや貧困世帯ならなおさらだろう。
 
 

さらに就学、仕事のことを考えると山への移住は人々の生活を苦しめるだろう。
だからといってかれらに拒否権はない。
 
 

その他私が感じた問題点は、山村集落での子どもたちの就学の問題である。
 
フィリピンで貧困から抜け出すことは簡単なことではない。
しかし貧困から脱するためには「教育」が絶対的に必要である。
 

しかし山村は学校が非常に遠く、通学路も安全とは言えない場合があり学校に行かなくなってしまう児童が存在する。
 
 

先に記述した強制移住の話も合わせて考えてみると、移住後に学校をドロップアウトしてしまう子どもが少なくないことは想像に難くない。
 

こうして教育を受けなかった子どもたちは結局貧困のまま、またかれらの子どもも貧困という環境で生きてゆく。
ただしこれは家庭や子どもたちに非があるのではなく、かれらの教育を受ける機会が移住という拒否できない要因により狭められてしまったことに問題があると考える。

セブでの貧困について

人々は明るく暮らしているがそれ以上にもっとより真剣に考え行動していかなくてはならない問題だと感じた。
 
貧困から抜け出せるかどうかという側面から考えれば、子どもたちの未来は明るいようでそうでもない。
 
 
大学まで行ける子どもの数は少ない上に、大学を卒業しても職がないという問題がある。
 
夢を持っているが叶えられる可能性が決して高くはない。
しかしこれからの支援のありかた次第で少しずつでも明るくなっていって欲しいと思う。
 
 
現地に来て良く分かったことのひとつが、支援されるべき子どもや家庭がまだまだ沢山あるということであった。
 
色々な団体がセブ島での貧困支援活動を行っていると思う。
しかし活動を通して驚いたのは子どもの数の多さである。
スラムで食事の配給を行う際に、大きな鍋一杯に入った食事が足りないことがしばしばあった。
 
 
スラム内からはお皿を持った子どもたちが次から次へとやってくる。
それを見て、子どもの数の多さに圧倒された。
 
彼らが皆このスラムで過ごしているのだと思うと、貧困世帯の数の多さを少し実感できたような気持ちになった。
 
 
家庭訪問でも現地の人々と話していても、経済的に困窮していることを感じさせられることがしばしばあった。
 
フィリピンにおいて貧困層の支援活動を行っている団体は少なくないような印象を持っていたが、支援はまだまだ足りていないということが分かった。

インターンで行ったこと

インターンの主な業務はソーシャルボランティア参加者のサポートをすることと、子どもたちと行うアクティビティを計画実行することであった。
 
ボランティア参加者のサポートを行う中で、活動があった日には毎晩「ふりかえりの会」を開かせてもらった。
 
ふりかえりの会の目的はボランティア参加者が感じたことや気付いた事、疑問点などを皆でシェアすることであった。
 
 
参加者がソーシャルボランティアに参加する経緯や理由は本当に様々である。
出身も専門も違うため、それぞれの参加者がそれぞれの視点から貧困の現実を見ていた。
 
医療看護を専門としている参加者はスラムや貧困集落における衛生状況に注目しながら参加していたし、経済を専攻している参加者は経済的な側面、ラオスへの教育支援のサークルに所属している参加者はラオスとの比較をしながらボランティア活動に参加してくれていたようであった。
 
 
彼らの思考をこのふりかえりの会を通じて私自身も見られたことは大変興味深くまた楽しく、非常に有意義な会であったと思う。

子ども達と行うアクティビティについて

私は保育士を目指している訳ではなかったので最初の頃はなかなか良いアイディアが思いつかず、何度も思考が行き詰まった。
 
初めは時間をいかに消費するかばかりを考えていたり、ボランティア参加者をどのように巻き込んで楽しくしていくかを考える余裕がなかったり。
 
思いついたことを挑戦することが許されている環境であったため、だんだんどのようにすれば楽しくなるのかを考えることも楽しくなったし実際にアクティビティを行っていて自分自身も楽しむことが出来た。
 
 

活動をしていく中で子どもたちがどのようなことを考えているのか知りたくなっていったので、アンケートが出来たことは良かったと思う。
 
この奨学生を対象に行ったアンケートではいくつか印象的な解答もあった。
 
 
「いくらお金があったらお金持ちだと思うか」
という質問に対し、大体の奨学生は金額を答えていたが、中には「お金持ちにはなりたくない、家族が健康であれば良い」という解答や「いくらでも、お金があればそれで良い」という解答もあった。
 
 
他には「今一番欲しいものは何か」という質問に対してなにか「もの」を答えた子どもが1人もいなかったことも非常に印象的である。
 
 
「今が幸せ」
「こうして沢山の人が自分たちを訪問してくれることが嬉しい」
「みんなの幸せ」
「家族の幸せ」
 
中には「日本人との絆」という解答もあった。
 
 
答えたのは10歳から13歳の子どもたちで、自分がかれらと同じ年だった頃と比べてその解答は随分違うと思う。
 
 
私が彼らくらいの頃は欲しいゲームやおもちゃが沢山あった。
何か欲しいものを聞かれれば迷い無くそれを答えただろうと思う。
 
彼らの解答にもそうした「もの」を予想していたが、その予想は良い意味で裏切られ、彼らの純粋さや今を幸せだと感じられる綺麗さを垣間みる結果となった。
 
 
 
アクティビティのプランニングについては、うまくいくアクティビティもあれば、いまいち盛り上がらない、うまくいかないという時もあった。
 
それでも挑戦してみることを許されている環境は非常に有り難かった。
 
やりたいことと、現地の状況が上手くマッチせず、諦めたアクティビティもある。
 
もっとアイディアやスキルがあれば別のやり方で同じ目的を達成できる方法も思いついたのかもしれないと思うと少し残念である。
 
 
なにか子どもたちの記憶に残ることがしたい、と始めた「だるまさんダンス」は少しずつ子どもたちも覚えてくれ、だるまさんダンスをすると分かった時嬉しそうにしてくれた子も何人か居たので、まずまず成功ということで私の中では完結した。
 
 
 
一番印象に残っているアクティビティはダンプサイトで行った「手形」のアクティビティである。
 
どこを見ても楽しそうな笑顔が見え、子どもたちだけでなく大人や日本人参加者も楽しそうにしていた。
 
皆の手形をダンプサイトに飾っておくことはできないが、記憶にも形にも残るアクティビティであったと思う。
 
 
その他のアクティビティについても準備が大変だったものほど思い入れも強く、子どもたちが楽しそうにしていると心の底から準備してよかったと嬉しくなった。

市民社会について

今回グローリアセブの活動にインターンとして参加したいと思った動機が、「社会問題と市民社会というセクター(特に市民社会団体)の関わりについて学びたい」というものであった。
 
社会問題、特に貧困問題に関して行政の持つ力、権限、決定権などは非常に大きいので、行政というセクターができることは多いと思う。
 
 
ではNGOやNPOを含む市民社会団体(以下CSO と表記する)は貧困問題において何をすることが出来て、どのような対場にあるのだろうか。
 
 
私は、CSOは人々と行政をつなぐ架け橋であると考えている。
 
貧困にあえぐ人々が存在し、必ずしもそうではないかもしれないが行政もかれらに対して何かをしたいと思っている。
(あるいはしなければならない)
 
 
しかし行政が何か支援を行う際そこには必ずその網からこぼれ落ちてしまい、支援を受けられない人々がでてきてしまう。
 
 
こうした人々に対してなにか取り組みを行うことが出来るのがCSOなのではないだろうか。
 
 
また、グローリアセブがそうであるように支援活動は常に行政との協力や先にその場所で活動を行っている団体との協力が不可欠である。
 
現地の協力なしでは活動を行うことが出来ないため、必然的に現地を巻き込む形で支援活動が行われる。
行政よりもより人々の近くで支援を行うことが出来るのだと思う。
 
 
実際にグローリアセブが奨学生を選ぶ際も、もちろんいくつか条件はあるがそれ以上に「子どもに教育を受けさせたい」という親の気持ちが重要視されているように思われた。
 
行政の場合は中々そうはいかないだろう。
そしてグローリアセブの活動中には現地のコミュニティとの間に信頼関係が存在することも伺えた。
 
 
更にNGOやNPOなどのCSOという民間セクターが社会問題に働きかけることによって、役場などの行政もその問題に向けて動き出すことができるのではないだろうか。
こうした意味で、市民社会というセクターは社会問題に対して大きな影響力を有すると思う。
 
 
 
2ヶ月の活動を通し、CSOは私が想像できる以上に可能性のあるセクターだと感じた。
 
社会問題に力一杯働きかけることが出来る。
 
貧困を撲滅することは難しいかもしれないが、選択肢を増やしていくことは出来る。
現在セブではもうJICAなどの支援は行われていないという話を聞いたが、私は支援がまだまだ足りていないと感じた。
 
 
また行政からの支援も様々な厳しい条件があり受けられない人々が多数存在している。
もっと多くの人々、団体が協力しつつ支援活動を更に展開していくことが望まれる。

自分の変化と将来の希望

今回のインターン活動を通して、私の1番大きな変化といえば「子どもを可愛いと思うようになったこと」である。
 
理由は分からないが私は日本で子どもを可愛いと思ったことがほとんどなかった。
しかしフィリピンの子どもたちは「純粋」という言葉がふさわしく、いつでも心を開いて私という一人の人間と接してくれたように思う。
 
 
彼らがあまりに自然に心を開くので私も心を開かざるを得なかった。
純粋で、「今」という瞬間を一生懸命に生き、楽しみ、騒ぎ、感じている子どもたちは生命力というパワーに満ちており、本当にかわいかった。
 
 
子どもたちと触れあう時間の中で、アクティビティ案の考え方も変わった。
彼らに自分たちのことを覚えてもらいたい、記憶に残りたいと思うようになり、時間を消費するという考え方から「楽しむ」という方向にシフトチェンジすることができた。
 
ボランティア活動に参加するだけでなく、活動外の時間も人々と触れ合うことで、子どもたちが「生きている」、「生活している」ということが実感できた。
 
 
 
受け入れ、受け入れられという心地よさや温かさを感じた。
そしてだんだんと私の中での人々の分類は活動先の人々、支援をされる人々という感覚から、知人・友人という感覚に変わっていった。
 
 
ある参加者の感想文に書かれていた、「人は知ってしまったら放っておけない生き物」という言葉がとても印象に残っている。
どんな形になるかは分からないが、支援を続けたいと思った。
 
 
 
大学生の私たちは貧困問題に対して、貧困層の人々に対して何ができるだろうと考えながら活動に参加した。
私たちにとって経済的にかれらを直接支援することは簡単なことではないのかもしれない。
 

活動中にその無力感に苛まれていた参加者もいた。
 
 
しかし活動を終えた今、子どもたちの少年・少女時代の「楽しい」という記憶、思い出に参加できたことはとても幸せなことであり、また私自身の人生のなかにかれらが存在することが財産であり、幸福なことでそれ自体がひとつのボランティアのあり方なのかもしれないと思うようになった。
 
 
どの活動場所に行っても、私たちの姿を目にすると子どもたちは笑顔になった。
 
「自分」という存在ひとつで、何かおもしろいことが出来なくても、なにかものを持っていなくても、あれだけ笑顔になって貰えることはなかなかないことであると思う。
こうして活動場所に行くだけでも十分支援に役立っているのではないだろうか。
 
 
 
フィリピンの貧困問題を少しでも軽減していくために、貧困層の人々の選択肢、特に教育に関する選択肢を増やして行く方法を模索する必要がある。
そして仕事、働き口が増えることや賃金が上がること、正規雇用が増える事も必要だろう。大学生である私が日本で出来ることについては、やはりまずは知ってもらうことが大切であると思う。
 
 
SNSを通し現地の様子を友人や家族に伝えると共に、大学内でサークル活動の時間を貰って私がセブ島でしたこと、見たものについての発表を行うこともできる。
 
 
私の大学では時折海外に出た人の報告会も行われているので、そうした機会を利用してできるだけ多くの人にフィリピンの貧困のことを認知してもらいたい。
そして私自身は色々な形の支援が存在するとは思うが、常にどうにか関わっていきたいと考えている。
 
実際には出来るかが非常に微妙ではあるが、大学内にサークルを作ることも出来るだろう。
 
 
それはより色々な人にフィリピンの現実を知ってもらうことにも繋がると思う。
例えばロレガでは紙で作ったカバンなどの商品やココナッツオイルを販売している姿を見かけた。
 
こうした商品を購入し地域のイベントや学祭などで販売することでかれらの生活の一助になる活動もできるかもしれない。
 
 
今はもちろん厳しいが、もっと勉強をして資金を貯めて将来的には貧困支援のNGOを立ち上げることも視野に入れたい。
 
 
 
そして何より、今一番現実的にできるひとつの支援。
 
それはまた必ずグローリアセブのボランティア活動に戻って来ること。
 
 

 
 
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