開発途上国の子どもや母親の援助を行っているユニセフ(国連児童基金)は、18歳未満の子どもの結婚を児童婚と定義し、早期の妊娠や社会的な孤立、学校教育の中断などをもたらす児童婚を人権を損害する行為として、児童婚の撲滅を持続可能な開発目標(SDGs)のひとつに掲げています。
結婚は自由で完全な同意の権利として、世界人権宣言で認められていますが、当事者のひとりが未成熟であった場合は、それを自由で完全と定義することはできず、将来に渡りさまざまな問題をかかえてしまいます。
この記事では、世界の児童婚の現状を踏まえたうえで、子どもが早期に結婚や出産をする原因と、その問題点について、フィリピンの貧困の子どもの支援活動を行っているグローリアセブが解説します。
世界の児童婚の状況
はじめに、海外の児童婚の現状を説明します。
児童婚とは男女両方、またはどちらか18歳未満で結婚をすることを指しますが、実際には女性の方のみが18歳未満というケースが多いです。
女性の児童婚は、サハラ砂漠以南のアフリカが最も高く、女性の35%が18歳より前に結婚しており、つづいて南アジア、ラテンアメリカとカリブ海、中東などの諸国が続いています。
黄色の棒グラフが18歳未満での結婚率、赤色は15歳未満です。
世界平均では、女性の20%が18歳未満、4%が15歳未満で結婚しています。
出典:UNICEF global databses, 2020, based on DHS, MICS and other national surveys, 2013-2019.
18歳未満の女性の児童婚率が高い国
・70%以上
ニジェール
・60%以上
中央アフリカ、チャド147
・50%以上
マリ、モザンビーク、ブルキナファソ、南スーダン、バングラデシュ
・40%以上
ギニア、ナイジェリア、マラウイ、エリトリア、エチオピア、マダガスカル
聞きなれない国名もあると思いますが、ここに挙げた14か国中、バングラディシュを除く13か国はアフリカの国で、アフリカでは、3人にひとりの女の子が18歳未満で結婚し、約10人にひとりは15歳未満で結婚しています。
フィリピンの現状
この章では、10年間に渡り、フィリピンの貧困層の人たちへの支援活動をしている僕が、フィリピンの児童婚の状況と原因について説明します。
ユニセフの調査では、フィリピンの未成年女性の結婚率は18歳未満が17%、15歳未満は2%です。
フィリピンは国民の2割が一日1.75ドル(約190円)以下で暮らしている、いわゆる貧困層のため、親が子どもに対してちゃんとした躾ができていなかったり、子どもを野放し状態にしているなど、児童婚を誘発するような原因はいくつもあるのですが、中でも大きな原因は、親も子供も、将来までを考えた理性的で計画的な行動がとれていないことにあると、僕は考えています。
実は、フィリピン統計局の調査によると、高校生の18.4%、小学生の12.5%が、学校を卒業する前に自主退学をしてしまうのですが、その理由のなんと22%が出産もしくは結婚によるものなんです。
詳しくは不登校の原因は結婚と貧困【フィリピンの子ども】をご覧ください
僕の知る限り、フィリピンでは強制的な結婚や出産といった行為はほとんど行われていません。
ただ、好きな人と一緒にいたいとか、自分の子どもが欲しいといった短絡的な感情で、同棲や出産をし、結婚という流れになっています。
裕福層でしたらまだ良いのですが、貧困層の場合、若年で結婚や出産をすると経済的にさらに困窮することは、少し考えれはわかりそうなものですが、多くのフィリピン人は、将来のことよりも、いまの幸せを優先し、児童婚や出産に走ってしまうんです。
この事態を重く見た政府は、2021年5月、衆議院で児童婚を違法とし禁止する法案を可決しました。
今後は18歳未満の児童婚は認められません。
もし、児童婚を認めたり、それにかかわった保護者は、6か月から1年の親権停止処分。
繰り返すと逮捕、投獄といった重い刑が科せられることになります。
しかし、同棲が児童婚とみなされるかどうかなど、具体的なことはまだ決まっていません。
児童婚の原因
未成年で結婚する原因はおもに3つあります。
1.法律や宗教によって未成年者の結婚が認められている
2.子ども自身の自由意思で結婚する
3.経済的な理由による強制的な結婚
ひとつづつ解説します。
たとえば日本では、結婚可能年齢が男性が18歳以上、女性は16歳以上と定められていますが、実は、世界でこの婚姻年齢を採用している国は日本を含めて13か国にとどまり、女性が15歳以下(15歳を含む)で結婚できる国も、中南米を中心に18か国(または州)あります。
これらの国々では、未成年者の婚姻が認められているため、保護者と本人が同意をしていれば児童婚は合法です。
また、地域によっては国で定められている婚姻年齢とは別に、キリスト教やイスラム教など、宗教が定めている法が存在しています。
それぞれの宗教法では、婚姻年齢を15歳~18歳と定めている場合が多いのですが、中には10歳でも結婚が可能だと説いている指導者もいます。
貧困層が多い開発途上国では、国民は政治よりも宗教の教えや文化を優先することが多いため、未成年者の結婚につながっています。
このような場合、女の子が望んでいない結婚や、初対面の男性との結婚を強制されているケースもあるのですが、途上国や貧しい国では神の教えや親の指示が絶大なため、政府はなかなか介入することができません。
次に、当事者同士が望んで結婚をするケースです。
日本でしたら、恋愛期間があって、結婚して、子どもを産んで、というステップが一般的なケースだと思いますが、途上国の特に貧困層は、恋愛と結婚がほぼイコールで、早く一緒に暮らしたい、家族を持ちたい、子どもを産みたいと、短絡的に考える子が多いのです。
特に女の子は自分の子どもを産むと言う願望が強いため、すぐに同棲をはじめます。
なぜ未成年でも結婚願望があるかというと、自分の周りにも10代で結婚して子どもを持っている友達や知り合いがたくさんいるから。
15~16歳で結婚して出産することは途上国では特別なことではないんです。
また、親も10代で結婚や出産をしているので、我が子を咎めたりはしません。
さいごに、本人の同意なしに、または意思に反して結婚を強いられるケースで、アフリカなど一部の地域では、自分の子どもを差し出して金品と交換する、いわゆる人身売買のようなカタチで児童婚が行われている国がいまだにあります。
また、口減らしと言って、貧しい家では家計の負担を減らすために、幼い子どもを養子に出して、養う人数を減らすこともあります。
このような悲惨な強制結婚が起きてしまう原因は貧困なのですが、貧困問題は根が深く、多くの途上国では打開策が見つかっていません。
国連はすべての国で強制結婚を撤廃するよう、持続可能な開発目標(SDGs)のグローバル目標5で、子どもに対する差別や人身売買、性的搾取の撲滅を掲げています。
児童婚の弊害
若年で結婚や出産をすることで起こり得る問題は、おもに3つあります。
1.ジェンダーギャップの拡大
2.若年出産による身体的リスク
3.経済的な問題
文部科学省が15~16年度に調査した「妊娠した高校生の在籍状況」によると、日本の高校生で妊娠や出産をした女の子で、通学を継続した生徒は全体の37%に過ぎず、大半の生徒は妊娠後に自主退学や休学の道を選んでいます。
これは日本の調査結果ですが、開発途上国の場合、同棲や妊娠をすると、ほぼ全員が学校を自主退学してしまいます。
学校に行かなければ、基礎的な学力や知識を身につけないまま社会に出ることになり、満足な仕事が得られないばかりか、毎日の生活にも支障をきたすことになります。
特に女性は、学校を出ていないことで、社会的な立場が弱くなりジェンダーギャップの拡大にもつながってしまいます。
事実、先ほど挙げた児童婚の多い国は、世界経済フォーラムが発表した2021年版の男女格差レポート(Global Gender Gap Report)において、男女格差が大きい国にも挙げられています。
次に児童婚の弊害として挙げられるのが、妊娠や出産に対する身体的なリスクです。
性や避妊に関する知識が乏しい15歳前後での児童婚では、女性はすぐに妊娠をしてしまいます。
しかし、子宮がまだ十分に成長していない若年での妊娠は、母体や胎児にとって大きなリスクとなり、早産や流産、そして、つわりや頭痛、発熱など母体に悪影響をあたえる可能性が高いこともわかっています。
また、妊娠高血圧症候群など妊娠関連の合併症によって、胎児の発育不全や流産を招くおそれもあります。
しかし、貧困層の場合、出産日の当日になって家にお産婆さんを呼び出産するといった状況で、費用が高い病院には行きませんので、からだに異変が起きても我慢するだけ。
母体や胎児に対する健康リスクはさらに高まります。
また、無事に出産できても、母親が若年のため育児に関する知識が乏しく、満足な子育てができない場合が多いです。
さいごに、児童婚によって起きる経済的な問題です。
女性の結婚相手は10代後半から20代前半がほとんどですが、安定した収入を得ている夫はごくまれで、大半は日雇いなどでわずかな収入を得ています。
感情的に結婚した夫婦は、すぐに困窮した生活に悩まされることになりますが、妊娠した女性は仕事もできません。
まして、子どもが生まれてくれば養う家族が増えるので、さらに生活は苦しくなり、金銭問題で夫婦関係もギクシャクしていきます。
こんな状況に嫌気をさして、家出や浮気をする夫も少なくありません。
また、強制結婚の場合ですと、奥さんや子どもに対して暴力的な虐待を繰り返す夫もいます。
児童婚をなくす取り組み
国連は、持続可能な開発目標(SDGs)の目標5.3に沿って、2030年までに児童婚と強制結婚を全世界からなくすことを掲げています。
未成年者の結婚、早期結婚、強制結婚、および女性器切除など、あらゆる有害な慣行を撤廃する。
ユニセフでは、「もし児童婚の防止で進展がなければ、2050年までに既婚の少女の数は1億2,500万人から倍増超の3億1,000万人にまで上昇する」と警告をならし、現在、4つの取り組みに力を注いでいます。
・女の子が学校に入学し、通い続けられるような支援
・女の子が成長してから結婚することにより生じる利益について、両親やコミュニティの人々に知識を深めてもらう啓発活動
・家族への経済的支援
・児童婚をなくすための法と政策を整備する支援
また、児童婚がもっとも多いアフリカでは、児童婚廃絶に関する「アフリカ少女サミット」を開催し、アフリカ諸国で情報を共有しながら、法改正や児童婚を撲滅するキャンペーンを展開しています。
フィリピンで支援活動を行っている国際協力団体 グローリアセブでも、児童婚は子供から教育機会を奪い、貧困に拍車をかける悪しき行為ととらえ、子どもたちへの道徳や社会教育、また奨学金の支給などを通して、義務教育を修了する18歳までは、学業に専念できるよう支援の活動をつづけています。
児童婚は、すぐに解決できるような簡単な問題ではありませんが、国連や各国の政府機関、そしてNGOが、地道に啓もう活動や援助を行っていくことで、数十年後には、世界からなくなっていくと信じています。
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