新型コロナウイルス感染症の大流行によって、フィリピンの小学校は2020年の3月から9月までの7か月間、一斉休校となりました。
10月からは授業が再開されましたが、対面式の授業ではなく、自宅でのオンライン学習またはプリント学習のため、それぞれの生徒の置かれている家庭環境のちがいから来る教育の格差問題が発生しています。
この記事では、生徒はどのような学習方法で勉強しているのか、また貧困層と裕福層に生じる教育格差の問題について、フィリピンの子どもたちの就学を支援している国際協力団体 グローリアセブが説明します。
目次
1.すべての生徒がモジュール学習
2.3種類のモジュール授業
3.教育格差の拡大
4.2021年の学校スケジュール
5.先生の苦労
6.子どもたちの学習支援
すべての生徒がモジュール学習
モジュール学習とは、1教科を10分~15分の短時間に分けて行う勉強方法のことです。
生徒の集中力と持続性を高める効果があることから、日本の小学校でも朝学習などで、モジュール授業が行われています。
モジュールとは「単位」とか「部品」の意味です。
フィリピンでは新型コロナウイスルの感染拡大防止のために、2020年からすべての幼稚園、小学校、そして高校が、自宅でのモジュール授業に切り替わりました。
通学することでの感染のリスクをなくし、あるていど自由な時間に自宅で勉強できるモジュール学習は、一見メリットばかりに思えますが、それによって教育格差の拡大や、先生の負担が増大するなど、おおきなデメリットも発生しています。
3種類のモジュール授業
フィリピンのモジュール授業には「Offline Learning」「Printed Modules」そして「Online Learning」の3種類があり、保護者が家庭の事情や子どもの意思なども聞いたうえで選択し、学校に申告します。
ひとつずつ説明します。
・Offline Learning
先生が、テキストや課題のファイルを、サーバーにアップロードし、そのリンクを生徒に送ります。
生徒は自分または親のスマホでアクセスして、テキストを閲覧したり、 課題はGoogleフォームから回答します。
フィリピンではオンラインサービスはGoogleサービスの利用が一般的で、公立学校でもGoogleクラスルームやGoogleフォームが利用されています。
このOffline Learningは、おもに自宅で常時接続(Wi-Fi)ができない生徒が利用しています。
理由は、通信料がかかるのは、最初のダウンロードと回答を送信するときだけですので、高額な料金にはなりません。
一方、Offline Learningのデメリットは、電話回線を利用しているのでおおきなファイルがダウンロードできないこと。フィリピンではいまだに3Gなんです。
よって、一回の学習量は少なくなります。
また、質問があってもリアルタイムで先生に聞くことができません。
・Printed Modules
通信料が支払えない、またはスマホを持っていない家庭では、保護者が週1回、学校へテキストを取りに行きます。
そして翌週、宿題を学校へ届け、また新しいテキストを先生から受け取ります。
これがブリントモジュールです。
印刷物ですので学習コンテンツの量はOffline Learningよりも多いのですが、先生は毎週、膨大なテキストをプリントして保護者に渡していかなければなりません。
・Online Learning
いわゆるオンライン学習です。
家庭がある程度裕福で、家でWi-Fiがつかえたり、通信会社と定額制のポストベイドと呼ばれる契約をしている子どもたちは、Online Learningでモジュール学習をしています。
Online Learningでは、都度、先生とのやり取りができたり、課題が完了したらリアルタイムで次のステップへ進めるなど、メリットが大きい学習方法なのですが、Online Learningを選択している生徒は公立学校の生徒の2割以下にとどまっています。
モジュール学習用のテキスト
お金持ちと貧困層に起きるさまざまな出来事について、文化的、歴史的、環境的、そして経済的な側面から、その要因を考えさせる中学一年生用のモジュールテキストです。
こちらは幼稚園児向けのテキスト。
フィリピンでは幼稚園も義務教育になっています。
教育格差の拡大
3つのモジュール学習のうち、全生徒の8割が選択しているのはOffline LearningとPrinted Modules。
自宅にWi-Fi環境が整っていて、オンライン授業が受けられる生徒は、全体の2割程度しかいません。
ほとんどの子どもたちは、学習量が少ないオフラインか、プリント学習のため、オンライン授業を受けている子どもたちとの勉強量の差が広がります。
これが、1か月、2か月の短期間でしたらまだ良いのですが、1年も続けば、その教育格差は計り知れません。
また、モジュール授業の場合、自宅での勉強時間の確保も重要になるのですが、貧困層の家では、子どもが兄弟の面倒を見たり、家事を手伝うなど、家でやらなければならないことがたくさんあって、たとえ短時間のモジュールでも、勉強時間を確保することが困難な状況になります。
学校へ登校して決められた時間、対面式の授業を受けるのでしたら、貧困層も裕福層も、同じ時間、同じ学習ができるのですが、自宅学習になると、学習の時間と質に格差が生じてしまいます。
実際、モジュール学習になってから、約5割の生徒が、その学期で完了すべきカリキュラムを終了することができず、成績表が発行されていません。
小学校の通信簿
2021年の学校スケジュール
フィリピンの学校制度は、6月に新学期がはじまり、翌年の3月が終業式でしたが、コロナ禍のため2020-2021年度は新学期のスタートが10月にずれ込み、終業式は2022年7月の予定です。
2021年3月1日~12日
二学期の補習期間
(成績が良くなかった生徒は補習授業や追試をうけます)
3月15日~19日
教師のトレーニング期間
3月22日~5月15日
三学期
5月17日~7月10日
四学期
2022年度の新学期は8月を予定
先生の苦労
対面授業からモジュール授業になったことで、先生たちの仕事はさらに増えました。
もちろん、いままでも大変だったのですが、教材の作成、配信、そして印刷と、すべての生徒に対応する準備をしなければなりません。
また、カリキュラムが遅れている子どもに対しては、家庭訪問をして個別に学習サポートも行っています。
そればかりではなく、フィリピンの教育省は予算が少なく、教材の作成費などのお金が学校に支給されないため、先生はコピー用紙や筆記具を自腹で購入したり、生徒の親から寄付を募ったりしながら、モジュール授業の準備をしています。
フィリピン教育省では、そんな先生たちの労働に報いるために、お給料の25%相当の額を、特別苦難手当として支払うことを決定しました。
子どもたちの学習支援
グローリアセブでは、現在25名の子どもたちに奨学金を支給して、学習援助を行っています。
みんな貧困家庭の子どもたちのため、全員がオフラインかプリント学習です。
このままですと、カリキュラムについていけなかったり、対面授業がはじまったときにオンラインで学習していた子どもたちとおおきな差が出てしまうので、携帯電話を支給することを決めました。
でも、携帯があっても通信料が払えなければ、オンライン学習をすることはできません。
フィリピンの通信料は意外と高額で、定額制で月額4千円ほど。
貧困層にとっては、とんでもない金額です。
グローリアセブでは、寄付金や里親会員を募り、子どもたちの学習支援を行っています。
私たちと一緒に、子どもたちを支援をしていただける方はご連絡ください。
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